何処ぞの奮闘記

男の子は考えることが好きだった。

男の子は、今日は死ぬことについて考えてみた。

死ぬことは、まずエンマさまに会いに、サンズの川をわたることだ。

川をわたったらさいご、もう帰ってこれない。

わたりきる前なら、なんとかもどれるらしい。

わたりきると、お父さんお母さんより早く死んじゃったこどもは、石積みをやらされる。

なんども、なんども。おとうさんとおかあさんが川をわたって来るまで続けるそうだ。

せめていっしょに、エンマさまに会いに行けるように。

おやこがそろうと、エンマさまに会いに行く。

エンマさまは来た人を天国とじごくに分ける。

天国のひとは、しばらく快適にすごしたあと、生まれ変わってまた生き物になる。

じごくのひとは、ずっとずっとつらいばつを受ける。

………？

死んだひとは、ぜったいにエンマサマのところに行って、分けられて、

生まれ変わったり、ずっとばつを受けているなら、

教えてもらったエンマさまのことは、ダレが伝えたんだろう？


………。

「なんだ、作り話か」

男の子は、今日はもう死ぬことについて考えるのをやめた。


男の子は、大人の人が話してくれるお話や絵本が大好きだったけど、

ほんとうじゃないことは好きじゃなかった。

イエスキリストさまも、ゼウスさまも、ブッダさんも、シャカさんも、

大人の人が優しく教えてくれるお話は、ほんとうじゃないことが多い。



どうして、ほんとうじゃないことを教えるんだろう？

男の子は、また考えはじめた。

ずっとずっと考えたけど、わからなかった。

大人になったらわかるだろうからいいや。

ちょうどおやつの時間になったので、ドーナツのあながどうして空いているのかについて考えることにした。






「それで結局答えは出たんですか？」

「ああ。」

「どんな？」

「…………あー、まぁ。『暇だった』ってことだ。」

「？」

「ガキのころは暇だったんだ。いつもそんなマセた事考える余裕があったんだよ。」

「暇、ですか。。。」

「……ところでな………」

「あっはっは！！　じゃあ自分は仕事に戻りますね！！」

「……ああ。」



大きくなった男の子は、自分の部下が何故あんなに暇そうに、喫煙所でだべっていられたのかを考えて、すぐ答えを見つけました。

明日の作業量は１割増だな。

大きくなった男の子は、タバコを捨てて喫煙所からでていきました。

デスクに戻るまでに、彼女に任せられる仕事を考えて、答えを出しました。

机の中から関連書類を出しながら、今夜の会議で最初の掴み文句を考えて、決めました。


大きくなった男の子は、死ぬことより生きることを考えることにしていました。

大きくなった男の子は、死ぬことより生きるために必要なことを考えるようにしていました。

大きくなった男の子は、死ぬことと生きることは同じ事だと、考えていました。

大きくなった男の子は、死ぬまでにやりたいことがたくさん出来ていました。

大きくなった男の子は、それらを全部やり終えるまで死ぬことはできないと考えていました。


彼の使命は膨大でした。

（「世界を生かしたラジオペンチの夢」より）

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